今回は、
残業手当の請求に係る裁判例を紹介しています(つづき)。
二 争点
原告らは、時間外勤務手当(残業代)及び深夜勤務(残業)手当の計算方法は別紙計算式記載の「原告主張の計算式」によるべきであり、本来各原告に対応する別紙請求金額計算表記載の数値及び計算結果により、同表の時間外請求額及び深夜手当(残業代)請求額欄記載の金額の割増賃金(残業代)が支払われるべきところ、その一部しか支払われていないと主張するのに対し、被告は右計算方法は別紙計算式記載の「被告主張の計算式」によるべきであり、割増賃金(残業代)の未払分は存在しないと主張する。そこで、原告らと被告の主張の対立点を整理すれば以下の三点となり、これが本訴における争点である。
1 時間外勤務手当(残業代)の一時間当たり賃金額を算定する際、本件給与規程においては、職務給は出来高払制その他の請負制によって定められた賃金に当たるものとして、総労働時間で割り〇・二五を掛けているが、月によって定められた賃金として月間所定労働時間で割り、一・二五を掛けるべきか。
(一) 原告の主張
歩合給とは生産高の一定歩合を賃金として支給するものであり、出来高給とは労働時間ではなく仕事の量によって賃金を支払うものであるが、職務給は、本件給与規程上職務要素による基本給として位置付けられており、その計算に当たっても勤務地別の店所区分及び職務別の資格要件により基本的な金額が算定されているから、その基本的性格は固定給に属するいわゆる職務給(各職務についてその必要とする知識、技術、努力、責任の度合や作業条件などの職務の困難度と重要度等を評価要素として職務の相対的価値を評価しその価値に応じて決める賃金)にほかならない。業績指数による差は各店所区分及び資格要件ごとにみると最大金八〇〇円にすぎず、各月額に対して一パーセント程度変動するにすぎないのであり、名目的に僅少の差を設けることによって時間外勤務手当(残業代)の支給額を減額することは不当であり違法といわなければならない。
(二) 被告の主張
基本給であれば固定給であるという論理必然性はなく、職務給の額についても地域、職種により格差を設けることはむしろ合理的であり、それがあることによって歩合給たり得ないというものではない。職務給は生産性に応じて支払われる給与項目としての歩合給の一種であるが、被告の給与体系には他にも生産性に応じて支払われる給与項目として能率給があり、能率給においてはかなりの格差が生じ得ることから、職務給における格差を右の程度に止めたものである。
2 運行乗務員に支給される運行手当をもって、深夜勤務(残業)時間に対する割増相当額とすることの適否
(一) 原告の主張
深夜勤務(残業)時間に対する割増相当額と認められるためには、単に給与規程上その旨の定めをすれば足りるというものではなく、深夜勤務(残業)時間の割増賃金(残業代)にふさわしい実質を備えることが必要であり、具体的には深夜の労働時間の長さ及びその労働者の一時間当たり賃金との対応関係をもつことが必要である。しかるに、運行手当は運行乗務員が貨物自動車の走行をしたこと、ワンマン走行をしたこと、荷作業をしたことなどの作業の量に対応して昼夜の区別なく支払われるものであり、深夜勤務(残業)時間の割増賃金(残業代)にふさわしい実質を備えるものとはいえず、その実質は歩合給である。
なお、本件給与規程に改正される前の昭和五四年四月一六日改正の旧給与規程においては、路線乗務手当(運転手当、荷作業手当、直集配料、途中積卸し料、横持料、待機手当、ワンマン運行手当、けん引手当)が時間外勤務(残業)時間に対する割増相当額として支給されており、深夜勤務(残業)手当は別に支給されていた。
(二) 被告の主張
運行手当は、給与規程の抜本的改正に伴い、運行乗務員の深夜勤務(残業)時間に対する割増相当額として、本件給与規程において設けられたものであり、従前の路線乗務手当とは全く別のものである。
運行手当は、走行距離、作業重量に基づいて計算するという点において深夜勤務(残業)に対する割増手当(残業代)の計算方法として特殊なものであるが、その故に深夜勤務(残業)手当としての実質を有しなくなるというものではない。被告は、運行手当の名目による深夜勤務(残業)時間の割増手当(残業代)相当分の支払額が労基法所定の計算式による割増手当(残業代)額を下回ることがないよう、常に両者を比較監視しており、実質的に労基法違反の状態は生じていない。
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