今日は、
残業手当の請求についての裁判例を紹介しています(つづき)。
三 争点3について
1 原告らは、標準運行時間を超える労働時間は手待時間とされ、時間換算により〇・四六六七倍されて計算されるから、手待時間と評価されない〇・五三三三の部分は切捨てられることになるのであり、標準運行時間制度は部分的な「みなし労働時間」制にほかならず、本来「みなし労働時間」制を採用できない職種について、部分的にせよ「みなし労働時間」制をとることは脱法行為として許されない旨主張するが、右「手待時間と評価されない時間」なるものは、手待時間の賃率を実労働時間の三分の一と定め、かつ、計算を簡便にするため時間換算をしたことの結果にすぎず、標準運行時間制度を「みなし労働時間」制と解することはできない。
2 労基法三七条は、時間外勤務(残業)時間につき通常の労働時間の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金(残業代)の支払を命じるにとどまるのであり、通常の労働時間に対する賃金は、労働時間であれば必ず同一額の賃金を支払わなければならないわけではなく、労使の合意に基づき、労働時間を何らかの基準に基づいて区分し異なる賃金額の定めをすることも許されるから、本件において問題とすべきは、標準運行時間以外の手待時間について賃率を三分の一にするのではなく時間換算する(所定労働時間内の手待時間が時間として〇・四六六七倍される)ことにより、本来は時間外労働(残業)時間として評価されるべき時間が所定労働時間内に組み込まれることになり、被告が本来支払うべき割増賃金(残業代)の支払を免れているか否かである。
しかし、〈証拠〉によれば、被告が手待時間の実労働時間に対する換算率を三分の一ではなく〇・四六六七とした理由は、手待時間はすべて所定労働時間内に発生したものとして計算処理するためであることが認められる。
そうだとすれば、時間換算をしたからといって、本来は時間外労働(残業)時間として評価されるべき時間が所定労働時間内に組み込まれ、被告が部分的に割増賃金(残業代)の支払を免れる結果になるという非難は当たらないから、計算の便宜のため前記の時間換算をすることに何らの違法もない。
3 原告らは、本件給与規程における標準運行時間は原告らの作業実態に適合していない旨主張する。しかしながら、〈証拠〉によれば、車両運行の作業については、特別の場合を除いて、標準運行時間は作業の実態に照応していることが認められ、荷作業については、いわゆる手待ち時間と評価することにつき問題のある実態部分が全くないとはいえないが、標準運行時間と実態との間に標準運行時間を用いた労働時間の把握を違法とする程の著しい乖離があることを認めるに足りる証拠はない。
実時間外労働(残業)時間と標準運行時間に従って換算処理された時間外労働(残業)時間との間に数値上大きな差が生ずるのは、多分に手待ち時間に対する賃率の影響によるものであり、必ずしも標準運行時間そのものの問題ではないと考えられる。
4 したがって、運行乗務員については、換算処理後の運行時間外時間と運送時間外時間を足した時間数に一時間当たりの賃金額を掛けて時間外割増賃金(残業代)を算定すべきところ、〈証拠〉によれば、原告吉川正吾、同早稲田清治、同宮沢富夫、同近藤明、同山田卓郎、同伊藤正郎、同吉沢弘善の昭和五九年四月から同六二年三月までの期間の換算処理後の運行時間外時間と運送時間外時間を足した時間数は、右各原告に対応する別紙認容金額計算表時間外時間C欄記載のとおりであることが認められる。
四 結論
以上認定判断したところにより原告らの昭和五九年四月から同六二年三月までの各月ごとの時間外割増賃金(残業代)額、深夜割増賃金(残業代)額を計算すれば、各原告に対応する別紙認容金額計算表の各該当欄記載のとおりであり、原告らの請求の範囲内において支給額との差額を計算すると、原告らの本訴請求は別紙債権目録の各原告に対応する認容金額欄記載の金額の限度で理由があるからこれを認容し,その余は失当であるからこれを棄却する。
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